「……何が言いたい?」

「彼女は“武久永輝”と“周防永輝”のどちらに惚れたんだろうな?」

“彼女”というのが誰をさしているのかは、聞くまでもない。

「当ててやろうか?」

壱はゆっくりと俺に近づき肩に手を乗せ、耳元でそっと囁いた。

「……自分に自信がないんだろう?」

……それは、何もかも見透かした上で、優しく慰めているようにも聞こえた。

「彼女に周防の人間だと打ち明けなかったのは、それにしか自分の価値がないことを知っているからだ。どれだけ同じ時間を過ごそうが、綺麗事を並べ立てようが、結局お前は根底では早宮杏を信用していないんだ」

バカにするなと即座に言い返してしまえば良かったのに、まるで鉛を飲み込んだように胃の奥が重くなる。

こんなのいつもの手口だと意に介さなければ問題ないはずなのに、反論できないのは壱の言っていることが図星だからなのか。

俺が沈黙を守っているのを見て、壱は満足そうにほくそ笑むのだった。

「そうそう、本題を忘れていた」

壱はジャケットの内側のポケットから封筒を取り出し、俺の手に無理やり握らせた。

「これ、君のお姉さんから。ガーデンパーティーの招待状だって」

招待状を渡すという用件を済ませた壱はじゃあなと言って先にバーから出ていった。

俺は招待状をグシャリと握りつぶし、じわりじわりと広がっていく毒のような不信感にひとり途方に暮れていた。