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「こんなところに呼び出しておいてどういうつもりだ」
その日、俺は壱御用達のクラウンホテルのバーに呼び出された。
話があるというからわざわざ時間を割いて来てやったというのに、呼び出した本人である壱はのんびりとカウンターに座ってウイスキーを飲んでいた。
「座ったらどうだ?」
……気に食わない。
この余裕綽綽という態度も、呼び出しに応じて当然という傲慢さも、何もかもが。
俺はバーテンダーにノンアルコールのカクテルを注文し、不機嫌丸出してドスンと壱の横の座席に座った。
壱の前で酒を飲む気にはとてもなれなかった。
「早宮を自分のチームに入れるなんて何を考えているんだ」
「彼女の実力を見込んでの起用だ。勘ぐるなよ、見苦しい」
相変わらずぺらぺらと口が達者な奴だ。
早宮の実力という部分に嘘は含まれていなさそうだが、異動のタイミングに関しては策略以外のなにものでもない。
(……上等だ、この野郎)
俺はバーテンダーから差し出されたドリンクを一気に飲み干し、口を拭うと矢継ぎ早に言った。



