「じゃあ、一体どんな人なんですか?」
拗ねた子供のように唇を尖らせ尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「僕みたいな男と結婚するしかなかった……哀れな人さ」
……それは、まるで自分を卑下することで奥さんの尊厳を守っているようだった。
(奥さんのことを……哀れんでいるの……?)
どこか遠くを見つめる田辺さんの横顔に女の勘が働いて、すぐにピンときた。
多分、田辺さんは。
……奥さんのことをとても大事にしている。
きっとそれは政略結婚とか関係なく……奥さん個人のことを尊重している。
愛のない結婚は不幸になることが多いが、田辺さんはどんな理由があろうとも奥さんをないがしろにすることはないだろう。
ひょっとすると、クラウンホテルで一緒に飲んだあの日、本当は私に手を出す気なんてなかったんじゃないの?
「田辺さんって……案外悪い人じゃないのかも……」
「無駄口叩く暇があるくらいだから、明日からもっと仕事を振ってもいいってことなんだろうね?」
「ひえっ!!」
迂闊に呟いた一言が招いた緊急事態に戦慄し、私は逃げるようにして携帯を取りにブースへと走って向かったのだった。



