(ん……?)
自動ドアをくぐりエントランスホールに入った瞬間、見覚えのあるシャツとジャケットが目に飛び込んできてつい反射的に観葉植物の鉢植えの影に隠れる。
噂をすればその人、まごうことなき田辺さんが、女性とふたりで談笑しているではないか。
……タイミング悪すぎでしょ。
っていうか、田辺さんと話しているのは誰だろう。
鉢植えから顔だけ出して、相手の女性の素性を探る。
オフィスには似つかわしくない白いマキシ丈のワンピースに幅広の帽子を着用している彼女が会社の人間でないことは明らかである。
肩甲骨までのびた黒髪にスラリと伸びた手足は光るように白く、鈴のような笑い声は聞いていて気持ちが良い。
ほんのりと薄化粧した顔立ちは悪目立ちするところがなく、間違いなく美人の部類に入る。
「じゃあ、お仕事頑張ってね。壱くん」
女性が田辺さんの肩に軽く手を触れてそう言うと、私の頭に衝撃が走った。



