「君の取り柄といえばひとつしかないだろう?」
田辺さんはそう言うと、社外秘と書かれたと分厚い資料の束をテーブルに投げて寄越した。
「今回のプロジェクトの概要だ。すぐに頭に叩きこんでくれ」
プロジェクトの概要って……。本気で私に田辺さんのチームの仕事をさせる気?
「社長になるには一に実績、二に金だ」
真意を探られていることを感じたのか、田辺さんはさらに続けた。
「競合他社とのコンペに勝ち抜き僕達の案が採用されれば、その建設は周防建設が請け負うことになる。一気に札束が転がり込むってわけだ。流石に役員達も僕が次期社長になることに納得するだろう」
「つまり……田辺さんが社長になるのを手伝えってことですか?」
「察しが良いな」
どう考えても田辺さん側にメリットが大きい。
“協力してやる”というには、押しつけがましいにもほどがある。
周防建設、ひいては田辺さんの評価が上げるために使える駒として私を引き抜いたということだ。
「やるからには死ぬ気でやってくれよ?」
……悪魔との契約にクーリングオフはきかない。
美人局のようなことをやらされないだけマシだと思い直して、資料を受け取ったのだった。



