ここで話すのもなんだからとカルテットの事務所に場所を移し、あらためて互いの自己紹介をする。
「カルテットの社長の緒方友海です。初めまして」
「どうも、早宮杏です……」
握手を求められたので、素直に右手を差し出して応じる。
(“トモミ”って……緒方さんのことだったのか……)
細身とはいえ、緒方さんはどこからどう見ても男性だ。
うわあ、何から何まで勘違い……。穴があったら入りたいよ、ううっ……!!
「突然お邪魔してすみません……」
カルテットの事務所にはまだ明かりがついており、緒方さんの他にも社員が残っているのかデスクが並んだ事務所部分の隣にあるミーティングルームと思しき扉からは、話し声が聞こえてくる。
深夜だというのに士気は高く、生き生きと働いているのが良くわかる。
「いやいや。ろくに説明しないまま家を空けた永輝が悪いよ。俺もまさか君に隠れて来ているとは思わなくってさ~」
「いちいち説明する必要なんてないだろ?」
武久は行儀悪く背もたれを抱えるようにして椅子に座り、むっすーとさも不機嫌そうにこちらを見ていた。
笑顔・柔和がデフォの緒方さんとは対照的である。
あとをつけていたのは悪かったと思っているけど、ちょっと態度悪くない……?



