「この……卑怯者……っ!!」
「卑怯者で結構さ。僕がのし上がるためには、永輝に周防建設に居座り続けてもらっちゃ困るんだよ」
口調は穏やかでも目が笑ってないのは明らかだった。人目をはばからず平然と自らの野望を口に出すことが、如実に物語っている。
(田辺さんは本気だ……)
本気で御曹司である武久を差し置いて周防建設の社長の椅子を狙っているんだ。
「戸田家との会食をすっぽかせば手っ取り早く追い出せるかと思ったんだけど、周防社長も実の息子相手には滅法甘いらしいな」
田辺さんはやれやれと肩を竦め、心底困ったように眉毛を寄せてみせた。
「会食……?何のことですか?」
急に意味の分からないことを言いだして、私を煙にまく気だろうか。
ふざけているのかと殺気立っていると、田辺さんは自分のことのように憤慨したのだった。
「まさか、周防社長があれほど怒り狂っていたのは行き過ぎた過保護のせいだとでも思っていたのかい?」
「違うの……?」
武久は御曹司だってこと以外にまだ何かを隠していたっていうこと?
田辺さんはお気楽な私をあざ笑うように、武久がひた隠しにしていた秘密を暴いていく。



