「何しに来たんですか?」
警戒心をあらわにして田辺さんを睨みつける。
先日のように暴力で訴えようものなら、金テキをお見舞いしてやるとファイティングポーズを構える。
「そう警戒しなくても、もう何もしないよ」
田辺さんは敵意がないことを示すように、大袈裟に両手を上げ降参ポーズをしてみせた。
「残業に励む君を見かけたから、良いものでもあげようかと思ってね」
そう言うとスーツの胸ポケットから封筒を取り出しデスクの上で逆さにして中身をばらまく。
「ぎゃーっ!!」
四方八方に飛んでいった封筒の中身を見た瞬間、私は顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
だって、封筒から出てきたのは私と武久のキスシーンのドアップ写真だったんだもん!!
「こっちの写真を周防社長に送らなかったのは、せめてもの情けだよ」
必死になって写真をかき集め封筒にしまう私を見て、田辺さんはゲラゲラと笑い出した。
(この性悪男っ!!他人事だと思って面白がってっ……!!)
こんな男に一時でも惹かれていたかと思うと、悔しくて悔しくてムキーッと地団駄踏みたくなった。
「ほら、3流カメラマンに頼んだにしては、よく撮れていたと思わない?記念にあげよう」
……何が悲しくて自分のキスシーンの写真を記念にもらわなくてはならないのだ。
腹立ちまぎれに眼前にひらひらと近づけられた写真をぐしゃりと握り潰す。



