「どうもご馳走様でした」
店先に横づけされた車に乗り込む福子夫人に深々とお辞儀をしてお礼を言う。
「本当に会社まで送らなくていいの?」
「大丈夫です。私ならひとりで会社まで戻れますから」
どこぞの重役のような扱いで会社に戻ったら誰に何て言われるかわからない。ひとりで戻る方がよっぽど気楽だった。
「また、永輝の話を聞かせてくれるかしら?」
「はい、喜んで」
「あなたとなら今後も上手くやっていけそうだわ」
福子夫人は窓から身を乗り出すと、私の両手をぎゅうっと握りしめた。
二度と離さんばかりの様子になんとなく居心地の悪さを感じ、ふと疑問が湧いた。
……福子夫人の訪問の目的は一体なんだったんだろう。
ただ、楽しくお喋りしただけで終わっちゃったけれど、スケジュールの合間を縫って私に会いに来るなんてよっぽどのことだ。
武久から私のことを聞いたと言っていたけれど、なんと聞かされているのだろう。



