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福子夫人は大きく頷いてみせたり、口を開けて驚いたりと、なかなか表情豊かに反応してくれるものだから話しがいがあった。
緑茶のおかわりを5杯も頂いたところで、お付きのガードマンが夫人にそっと耳打ちをした。
「奥様、そろそろお時間です」
「あら、もうそんな時間なの?」
腕時計を見ると店に入ってから既に1時間ほどが経っていた。
「ごめんなさいね。この後、別の用事があるのよ」
周防建設の先代社長夫人ともなると、現役を過ぎてもなおご多忙なようだ。
「私のことは気にしないでください!!」
残念そうな福子夫人とは対照的に、私はお茶会がお開きとなると聞いて正直ホッとしていた。
いつ粗相をしてしまうかと思うと気が気でない。
こんな気持ちになるくらいなら仕事に忙殺されている方がはるかにマシである。



