午前7時30分。
誰もいない。
築70年の古いアパート。
302号室。
キィ〜という不快な音を鳴らしながら、ドアを開ける。
錆びれた階段を降り、無駄に広い歩道を歩く。
この時間になると、そこら中から、騒がしい奥様方の噂話が聞こえてくる。
「田中さん家の息子さん。広大合格ですって」
「あらまぁ、家の息子なんかもうすぐ高3になるってのに、ずーっとゲームよぉ」
なんて、言ってる。
なんで、他人の子は褒めるのに、自分の子は貶す。
何の意味があるのか分からない。
そんなことを毎日思いながら、住宅街を抜ける。
家から歩いて、約15分。
住宅は一切消え、周りは見渡す限り田畑だけになった。
また、歩き続けると交差点が見えてくる。
交差点と言っても、ただ道がクロスしてるだけ。
横断歩道なんて無い。
ましてや、信号機なんてある訳が無い。
ザァッと風が吹き、まだ、実のなってない麦の香りが運ばれてくる。
その交差点を右折する。
