「あ…」
とっさに声が出なくて口を開けたまま見上げてしまったその人は、紛れも無く…前橋君。
「おはよう」
「お…おはようっ」
とてもじゃないけれどそれ以上の言葉を交わす事なんてできなくて、前橋君の隣を物凄い勢いですり抜けて事務室に駆け込んだ。
「あ、井上さん。これファックス不明瞭で読めないから、再送してもらうように電話してもらってもいい?」
息を切らしながら席に座るなり、斜め向かいの佐伯さんから取引先から届いていたと思われるファックスを差し出しだされた。
普段は絵奈ちゃんと名前で呼んでくれる佐伯さんも、仕事モードになると井上さんにスイッチする。
仕事モードの佐伯さんは、普段のほんわかした雰囲気が一気に無くなってぴりっとしていて、私の憧れの先輩。
「はい」
金曜日、何があったのか聞きたかったけど、完全に仕事モードになってるから無理だな。
諦めて休憩時間まで待とうかな…。
私も、気を引き締めて置かないと。
心の中で気合を入れて、4つあわせてあるデスクの真ん中に置かれている、未処理のファックスのから早目に処理する束を手に取る。
今日は変なミスをしそうで凄く不安…と思いながら居る私の耳に届く、聴きなれた声。

