さ、さすがにそれは…無いよ?
そう言いかけて、過去2週間その説得力の無さを思い出す。
「…覚えて…るよ」
覚えてる。
その手がどれだけ熱かったのか。
その手にどれだけ翻弄されたか。
「絵奈」
昨夜、何度も呼ばれた名前。
それだけで身体に熱が灯る気がした。
「足りなかった?」
私の顎にそっと指を添えて上向かせて、前橋君がクスッと笑う。
「もっと欲しそうな顔してる」
そんな言葉と共に降りてきた唇を受け止める。
そんなこと無いけど。
でも、触れる唇と離れがたくて首に腕を回してしがみつく。
欲しいのは、一時の熱情より穏やかで安心する温もり。
刹那的な恋は、昔から苦手。
「前橋君さ…」
「幹人」
「…」
「昨夜は呼んでたのに」
躊躇っていると、くすっと笑って言われる。
だって、昨夜は…昨夜は…。
「だって、会社で呼んじゃったら恥ずかしいし…」
取って付けた理由に前橋君は苦笑した。
「あぁ。先週だから覚えてないのか」

