「織田殿…今までありがとうございました。」

可愛らしく笑う秀吉は少し寂しそうにも思える。

「ははっなんじゃお主。織田家から出るつもりか?」

「そんなわけ…!ですから…織田家に来てから今に至るまで、織田殿のお陰でここまで来れました。」

秀吉はわしの腕の中で小さく頭を下げる。今の秀吉には、武士の皮や女としての皮など被らず、ただ素のままにいてくれる。

素の秀吉はやはり美しい。

「だから…ありがとうございまする。」

「別に気にせんでいい。わしもお主にはさんざん助けられておるからな。お互い様じゃ。」

お互い目を逸らさずに話す。



「織田殿…。今まで織田殿のためだけに生きていました。死にかけていた私にはそれしか頼るものが無かったので。しかし勝手ではありますが、これからは己の為に生きても良いでしょうか。」

きっとわしの答えなど分かっている。
これは形式的な問い掛け。
それでも自分で育てた子が手元から離れていくような、そんな寂しさを受ける。

「ああ。構わん。しかし条件がある。」

秀吉は不思議そうな顔をする。その顔を手で優しく触れる。

「前も約束したが…武士として死ぬ以外死んではならんぞ?」

「ふふっ。はい。」

「それと…」

「それと…?」

待ち遠しそうに次の言葉を待つ秀吉は可愛い。そんな秀吉に真剣な目を向ける。