「あははっ。」
秀吉がくすくすと笑いだした。
本当に楽しそうに笑っていて、さっきまで泣いていたのが嘘のようで。
その瞬間二人の間に流れていた切ない雰囲気が消えた。
「ふふっ織田殿…可笑しいっ。」
それは昔の呼び方で、懐かしくて少し甘い。
「藤吉、お主笑いすぎじゃ。」
「だってっ織田殿が…!」
頭をゆっくりと撫でる。気持ちのいい秀吉の髪は触っていて気持ちが良かった。
「織田殿なんて…久々に呼びました。」
「別にわしは呼び方をとやかく言った覚えは無いんじゃがのぉ。それに、その呼び方の方が親近感があって好きじゃがな。」
「駄目ですよ!織田殿の威厳に関わりますからね。」
そう言ってふわりと笑う秀吉。
わしも天下人と呼ばれるようになって、秀吉も国主にまでのしあがった。
そんな二人が昔に戻ったように笑いあう。
蜃気楼や幻のようにも思えるその時間は、ひとときの間二人の立場や重荷を忘れさせていた。

