馬屋へと走り、たまたま小姓が馬に鞍をつけていたので、その馬を拝借する。
馬に飛び乗り門番に急いで門を開けさせ、一心不乱に海へと走らせた。
わしはどうするつもりなのだろう?
そもそも海に藤吉郎はいないかもしれないのに。
もう手遅れかもしれないのに。
もしいたとして、藤吉郎が死ぬことを思い止まらせるような言葉など無いのだ。
もう彼女にすんなりと死なせてやった方が良いに決まっている。
そう思いながらも馬を止める事は無かった。
海につき、馬を急いで繋ぎ走る。
周囲を見渡すと、この間二人で座った木に誰かが座っていた。
「藤吉…!!」
そう荒くなる息を抑えることなく叫ぶ。
すると下を向いていた藤吉郎が、ぱっと顔を上げた。
「……織田殿…?」
藤吉郎の顔は涙で濡れていた。
城に来た当初に一度泣いただけで、あれから藤吉郎は一度も涙を見せなかった。
それが今、目の前で大粒の涙をこぼしている。
急いで駆け寄り、藤吉郎を抱き締めた。
「藤吉…!約束が違うではないか!」
そんな約束一つにすがるなどしたくなかった。
しかし、それしか術が無いのだ。

