だいぶ長い時間二人で海に居たが、その間ずっと話をしていた。主にわしの昔話ばかり聞いてくる藤吉郎。
そんなもの何が面白いのか分からないが、藤吉郎は目を輝かせながら笑っていた。
今だけは忘れられたのでは…そう淡い期待を持ってしまう。
「織田殿は本当に面白いお方ですね。」
「まぁ、うつけの殿じゃからのぉ。」
「あははっ!うつけの殿でも構わないではありませんか!」
不意に藤吉郎は立ちあがり、それからくるっと振り替える。
陽が後ろから藤吉郎を照らす。
その様は実に美しく、儚かった。
「天下を取るなど、常人には出来ぬ事です。うつけくらいが丁度良いのですよ。」
そう綺麗に今日一の笑みで笑った。
思わず、藤吉郎を抱き寄せる。
藤吉郎は驚き倒れこむようにして、わしの胸へとするりと引き寄せられる。
「織田殿っ!?」
焦る藤吉郎を強く抱き締めた。
ふわりと海の香りに混じって、藤吉郎の香りが体に入ってくる。
「…好きじゃ…。」
小さく、呟くように藤吉郎の耳元で言葉にする。
すると見上げてくる藤吉郎が嬉しそうに笑った。
それを見たら我慢が出来なくなり、思わず藤吉郎に口付けをしてしまった。

