樫の木の恋(中)



「そんなこと気にせん。それに藤吉は綺麗じゃよ。」

気休め、慰めに過ぎない。
いや、藤吉郎にとって気休めにもならんのだろう。

それでもそう言いたかった。



海を眺めながら二人で過ごしていた。

「織田殿…。織田殿の話が聞きたいです。どんな方なのかもっと知りとうございます。」

「そんなもの聞いたところで…。」

「駄目ですか…?」

癖なのか、わざとなのかは分からんが、下から目を潤ませ覗きこんでくる。

「まぁ構わんが。」

「やった。失敗談などが聞きたいです。」

嬉しそうに藤吉郎が笑う。

「なんじゃ、わしを笑うつもりか?」

「違いますよ。失敗談を聞けば、その人がどういう方か分かるのですよ。」

砂浜を足で弄ぶ藤吉郎。それがなんだか子供のようで可笑しかった。

「んー。失敗談のぉ。自分では別に悪いとは思わなかったんだが…。」

「何をしたんです?」

「親父の葬儀で位牌に抹香を投げつけた。」

「へ?」

きょとんとした顔で口を開けたまま固まる藤吉郎。そんな藤吉郎を見ていたら、思わず笑ってしまった。

「じゃから、位牌に抹香を投げつけたんじゃよ。」

「な、何故です?」

当時の事を鮮明に思い出す。
本来葬儀の時は武士は畏まった格好で行くものだ。
しかしそんな格好をせず、楽な格好で行ったのだった。