樫の木の恋(中)



「考えておる、毎日。しかし何にも思い浮かばん。」

そう正直に告げると藤吉郎はふっと笑った。。

「そんなすぐに生きようと思える事など見つかるわけありませんよ。」

その一言がどれ程重たいものなのか。今それを肌で感じている。


藤吉郎はまだ死にたいと思っている。


半月経った今でもそれは変わらないものなのだ。

「織田殿の今後を見たい気持ちはあります。凄いお方だなと思わされていますし。」

「なら…」

「しかしそれでも、死にたいと思ってしまうのです。」

背中に嫌な汗がひやりと垂れるのが分かった。
彼女の中で、わしはまだ生きたいと思う理由にはなれていない。

「寝ても、覚めてもあの事ばかり。今すぐにでも、この海に流されてしまいたい程です。」

「……。」

何も言えなかった。言葉を発する事でさえ躊躇われたのだ。

「それに、織田殿が私には眩しいのです。」

「わしが?」

「夢にひたむきで、真っ直ぐに穢れを知らずに生きてきたのでしょう。そんな織田殿が私のような不浄な身からしたら眩しいのです。」

眩しそうに笑う藤吉郎をゆっくりと抱き寄せる。
彼女は己が嫌いなのだ。
しかし、それは仕方のないこと。

藤吉郎が今まで味わってきた苦痛を考えたら、己を好きになれる訳など無いのだ。

「私などといたら、織田殿まで穢れてしまいます。」