「織田殿は本当に天下を取られるのだと思いますよ。女の感は当たるんです。」
そう言って小さく笑う。そんな藤吉郎を離したくなくて、ぎゅっと抱き締める。
そう言ってくれるのは、本当に藤吉郎だけなのだ。嬉しく思わない訳がない。
「織田殿そんなに強く抱き締められては…痛いです。」
くすくすと可愛らしく笑う藤吉郎。楽しそうに笑っているはずなのに、彼女の中の何かは壊れたまま。
「すまん。しかしお主は強く抱き締めておかんと、何処かに逃げてしまいそうでな。」
藤吉郎がゆっくりと抱き締め返してくる。そんなことは初めてで嬉しく思ってしまう。
「……ひと月経つまでは、逃げませぬよ。」
きっと今藤吉郎の頭の中で、拷問の記憶が甦っている。抱き締めたくらいで、忘れられるはずなどない。
その事実がこんなにも身を引き裂いてしまいたくなるほどに、辛くなる。
いっそのこと死なせてやった方がいいのでは。
そんな思いが毎日頭をよぎる。
「藤吉、行きたいところとか…あるか?したいこととか…。」
「突然、どうされたのです?」
なんにも思い浮かばなかったのだ。
藤吉郎が此の世に残りたいと思える何かが、なんにも思い浮かばなかったのだ。
ひと月しかないのに。

