「もう嫌なんです!男など!此の世など!」
徐々に気持ちが溢れてくるのだろう。藤吉郎は抱き締めていた腕を払いのけ、少し距離を取る。
痛々しい顔は、体が痛いのもあるのだろうが、心が壊れて悲鳴を上げているのだろう。
「死にたくなるほど痛めつけ身籠らせて!でもそれが流されて絶望させたのに、今度は生きていてくれ?ふざけないで…。」
悲しかった。
自分はそうではないと、言い切りたかった。しかしそんなもの口先三寸で、拷問もしたりする。さすがに女子を拷問などしないが、これから完全に無いとは言いきれない。
「織田殿のような方には、一生分からないのでしょうね。爪を剥がされても、切り刻まれても、気絶するほど殴られても、腕を折られても、犯されても!痛さに、苦痛に、耐えねばならないのです。死にたくたって、猿轡で死ねない。夢の中でさえ、地獄になるのです。」
「…。」
「そんな状況に置かれると、死ねることが希望に思えてくるのです。死ねば解放される。寝ても覚めても地獄ならば、もう何も思わない無の世界に行きたくなるのです。」
死ねる事が希望。彼女は死という言葉を渇望していた。
心の底から死にたいのだと、叫んでいた。間違いなく死という言葉が彼女の拠り所になってしまっていた。
「……もう死にたいのです。ひと月など、待てません。それが私の希望なのです。」
「そう…か。」
藤吉郎はもう話すことなど無いと言わんばかりに、空を見上げていた。
夕暮れに染まる藤吉郎の顔はひどく綺麗で、彼女の中の何かが壊れていることを思い知らされる。
「ならば……わしも共に死のう。」
「は…?」
「ひと月待てぬというなら、共に死ぬ。」
「織田殿が死ぬ理由がありませぬ。」
訝しげにこちらを伺う藤吉郎の顔を真っ直ぐに見据え、口にする。

