「ひと月でいい。」
「えっ?」
「ひと月だけ辛いやもしれんが、死ぬのを待ってくれんか?」
藤吉郎は腕の中で不思議そうな顔をして見上げてくる。
頬にある青あざのせいか、痛々しさが拭えない。
「何故です…?」
「ひと月経つまでに、わしがお主が生きようと思えるようにする。それが出来んかったら、わしが自害を介錯してやろう。」
「何故そこまで…。」
「好きだからじゃ。頼む。」
藤吉郎は困ったように微笑んだ。その笑みが見たくなくてぎゅっと藤吉郎を抱き締める。
強く抱き締められた藤吉郎は、それでもしっかりと話し出す。
「織田殿が想ってくれるのは嬉しいのですが、ひと月も耐えられませぬ。今すぐにでも死にたいのです。」
「…。」
「拷問部屋にて、気を失うように寝ていても男の手が迫ってくる夢を見るのです。そして起きたら現実でもそうなるのです。」
「……織田家ではそのようなこと…」
「本当に無いと言えますか?お会いしてまだ何度も会っていないような方を信じろと?」
藤吉郎は腕の中で泣いていた。驚いて体を離すと、つい今しがたまで、自らを律して弱いところなど見せぬようにしていた藤吉郎がぽろぽろと涙をこぼしていたのだ。
「物心つく頃から男に虐げられ、ある時からそれを利用してやろうと思っていました。しかし利用すればするほど、己が穢れていくようで。ようやくそれも終わると思ったら、このような事になって。」
藤吉郎は抑えられないのか懸命に涙を拭っている。本当は拭ってやりたかったが、嫌がられてしまいそうで触れられない。
藤吉郎の片手では拭いきれない涙が、着物にどんどんと吸い込まれていく。
「私は…!楽しいという思い出など一度も無かった。こんな世、壊してしまいたかった!だけど、女というだけでこんなにも難しい…!」
声を荒げ、憎々しいものを見るかのようにこちらを見てくる。
きっと男という生き物に対しての眼差しなのだろう。
それはどこまでも深く、怨嗟の声がつきまとう。

