樫の木の恋(中)



藤吉郎は散々うなされ嫌な汗をかいていた。そして次の日の夕方頃に目覚めた。

「……ここは…?……織田殿っ?」

酷く藤吉郎は驚いた。恐らく拷問する場所で気を失ったのだろう。
青い顔をした藤吉郎の乱れた髪を撫でようと手を伸ばす。

すると藤吉郎は反射的に手を拒み怯えた。震えていたのだ。不意に見えた暗く光らないその瞳を見ていたら、心苦しくなってくる。

「すまん。怖がらすつもりは無かったんじゃが。」

行く場所の無くなった手をゆっくりと戻す。

「いえ……。あの、これはどういう。」

藤吉郎は起きようと試みたが、体が痛かったのか顔をしかめるので、寝ていろと言う。

「お主が拷問されていると、元康殿から聞いてな。忍に助けさせた。」

「そうでしたか…。本当にありがとうございます。でも…」

「どうした?」

礼を述べてから口ごもる藤吉郎。

直後、痛々しい笑みを浮かべた。

「藤吉……?」

そんな笑顔見たくなど無かった。辛そうで今にも壊れてしまいそうなそんな笑顔。

彼女は確かに今までも作り笑いが上手で、いつもそれを張り付けていた。

しかし今浮かべているのは、絶望という言葉しか思い浮かばない笑みだった。

「助けて頂いて有り難いのですが、もう死にたいのです。」

そうはっきりと死を口にした。