「まさか…迎え討つ…なんてなぁ。」
当主である勝頼が、しばらく一人にさせろと命令されたので、武田四名臣は酒を交わしていた。
此度の戦は負けるだろう。
誰もがそう確信していた。
だからこそ生涯最後の酒と思い、皆と共に酒を酌み交わしていた。
「はぁ…もう武田家は駄目なのじゃろうか。」
信春がそう呟くと、昌景がカッと目を見開き反論してくる。
「滅多な事を言うな信春!」
「しかし殿は結局、目の前の敵よりも亡くなられた信玄殿ばかり追いかけている。あれでは信長には勝てますまい。」
正論を言われて、さすがの昌景も何も言い返せなかった。
「信玄殿が亡くなられた穴は大きい。北条とは縁も切れ、上杉の猛攻にも耐えねばならない。信玄殿がいれば、そんなものなんてことなかったのに…。」
信玄公は死ぬ間際に、自分の死は三年は隠せと言っていた。このような事態になってしまうことを分かっていたのだ。
信長も信玄公が生きていたら、全面的にやりあおうとは思わなかっただろう。
それだけ信玄公の存在は大きかった。

