「……半兵衛。こっそりと酒井殿を呼んできてくれぬか?」
軍議が終わり解散すると、こっそりと秀吉殿がそう耳打ちをしてくる。
秀吉殿がこっそりと耳打ちをしてきたので、小さくそれに答えて、あまり目立たぬように酒井殿に声をかける。
「おや、羽柴殿の旦那様ではありませぬか。何か用で?」
「少し、お話がありまする。」
こちらが小さく言うと、酒井殿厳ついその顔を少ししかめながらもついてきてくれた。
秀吉殿は大殿の元で共に待っていた。
大殿の元は少し小さめの声で話せば、誰にも聞こえない環境になっていた。
「先程はすまぬな。忠次。」
「いえ、気にしておりませぬ。」
「いや、そういう意味ではない。」
それがしと酒井殿はどういう意味なのだろうと首をかしげる。すると秀吉殿が口を挟んだ。
「酒井殿の案は良い。しかしこの案は武田軍に漏れたら失敗してしまう案じゃ。武田軍の間諜がもしかしたらいるやもしれんから、あの場では大殿に案を取り下げてもらったんじゃ。」
「…なる、ほど。さすが、羽柴殿…。」
酒井殿はそこまで徹底する秀吉殿に感嘆し、驚いて声を出すのが精一杯だった。
「家康殿にも了承を得ている。今すぐ四千程の奇襲隊を結成し、長篠城へと向かえ。」
「はっ。」
酒井殿はさっと頭を下げ、さっそく奇襲隊を動かしに向かっていった。
あの酒井殿の厳つい顔が少し嬉しそうにしているのが見えた。

