「羽柴殿の案に加えて、奇襲隊を出すのはどうでしょうか。」

突如上がった声。
徳川家の家臣である酒井忠次殿だった。
厳つく笑った顔を一切想像させないその顔は、単純に怖い人だなと思わせる。

「武田軍を迂回して豊川を渡り、長篠城へ救援部隊としての目的を果たした上で、奥平軍と共に武田軍の退路を絶つ。というのはどうでしょう?」

酒井殿は眉一つ動かさず、ただ淡々と口だけ動かし抑揚の少ない声で話を繋げる。

その話を聞いて、秀吉殿が急に大殿へと顔を寄せ耳打ちする。皆、何を話しているのだろうとじっと秀吉殿を見ていた。
大殿と秀吉殿は二言三言小さく話し、徳川殿もそれに加わって聞こえぬよう話してから軍議へと戻られた。

「奇襲隊はいかん。武田軍の別部隊が後ろに控えているかもしれんからな。わざわざ危ないことをすることはない。」

大殿が厳しく酒井殿の案を一蹴する。

「しかし」

「うるさい。その案は無しじゃ。」

酒井殿は一蹴されたことに納得していないような顔をしていたが、大人しく引き下がった。

それがしも奇襲隊は良い案だと思うのだが、何故大殿はあのように強く拒んだのだろう。