樫の木の恋(中)



すぐに強右衛門は磔にされ、城の前へと突き出された。
手足を縛られ、身動きなど一切取れない状態だった。

兵によりすぐ目の前、心の臓の所に槍が当てられている。今すぐにでも刺せそうだが、そんなものはどうでも良かった。

城には籠城している兵がこちらを見ているのが分かった。この距離ならば叫べばしっかりと聞こえるだろう。

強右衛門はその事に安心していた。

「我は貞昌殿の遣いとして出された鳥居強右衛門だ!」

勝頼はその光景を後ろから見ていた。この男が言えば信じるだろう、そう感じていた。

「腑甲斐無い事に武田家に捕まった。」

強右衛門はしっかりと城を見据えて叫ぶ。



「あと二日もすれば家康殿が数万の兵を率いて来てくれる!それまで持ち堪えよ!」



その言葉に武田家の兵達は面食らった。

「やられたっ!」

打ち合わせとは違うその言葉。
強右衛門ははなから自分の命など惜しくはなかったのだ。

勝頼は強右衛門が信玄に見え、また勝てないのだなと悟った。



強右衛門は見えはしないものの、きっと勝頼は驚いて憤慨しているのだろうなと笑っていた。

そしてそのまま槍で貫かれた。