来た道を引き返し、馬を走らせた強右衛門は再び武田家の包囲網の外側まで来ていた。
やはり行きと同じように川を渡るしかない。
早朝で明るくなってきていたが、気持ちが急いて急いで川を渡ろうと馬を降りゆっくりと川へと入ろうとした。
それが間違いだった。
「怪しい奴めっ引っ捕らえろ!」
いきなり数人の武装兵がかかってきた。刀を抜き、抵抗するがさすがに数人を一度には倒せず、城を目前にして捕まってしまった。
強右衛門は勝頼の元へと連れて来られた。
「殿!先程寒狭川を渡ろうとする怪しい奴を引っ捕らえました!密使やもしれません。」
勝頼は苛々していた。
長篠城の中はそんなに兵はいなかった。こちらは一万もいるのに、鉄砲とこの地形のせいでこんなにも落城が長引いている。
その事に勝頼が苛ついているときの一報だった。
勝頼は強右衛門を見て、顔をしかめる。強右衛門の目には決意の色が見えたのだ。

