「旦那殿、飲みましょうぞ。」
そう言って傾けられたので、酒を注いでもらう。
人の良さそうなその顔は、ただ単に楽しそうだった。
「いやぁ旦那殿とお呼びするのはあれですから。半兵衛殿でも構いませんか?それがしは官兵衛でいいですから。」
「半兵衛で構いません。官兵衛殿。」
「あははっ!殿などいりませんよ。見たところ同じくらいの年ですし。」
「でしたら、こちらもそのままで構いません。」
「敬語もよしましょう?駄目です?」
「構わないけど…。」
「良かった!いやぁ、半兵衛とはなんだか仲良くなれそうじゃな!」
ぐいぐい来る官兵衛に少し引いてしまう。それにこちらとしては、秀吉殿とどういう関係なのか知りたいと言うのに。
「秀吉殿とどういう関係なのか知りたいと、顔に書いてあるなぁ。」
大きく笑いながら官兵衛が笑う。
思わず考えを読まれたことに驚いてしまう。
この男、人のいい、がさつな男なんじゃないかと思っていたのに、案外鋭い。
「秀吉殿は美しいお方だから、半兵衛も油断出来んのだろう?大丈夫じゃよ。本当にただの友じゃ。」
官兵衛の言葉を信じてしまいそうになる。
この男は何処かそういう節がある。しかしそう簡単に信じてしまっていいのだろうか。
思いのほか切れる男な気がして来る。
「半信半疑と言ったところかぁ。まぁ突然来た男を信用しろという方が無理あるか。」
「いや、信じる。」
そう言うと官兵衛はにこやかに笑った。

