樫の木の恋(中)



「そりゃ秀吉殿の味方ですけど、危ないことは駄目です。そういうのはそれがしがやることです。」

「そ、そんなに危ない事はしとらんし…」

「いやいや、この間の朝倉景建の時だって、わざわざ斬り合いにしなくたって良かったんじゃ。己の力を誇示したかったんじゃろう?」

明智殿はにやにやと秀吉殿をからかう。

「うっ…。そ、それもありますけど…。で、でもあの時は少しも怪我してないし…。」

「そういう問題じゃありません。怪我してからでは遅いのですよ?」

そういうと秀吉殿はむっと可愛らしく怒る。

「そもそも!明智殿も半兵衛も少々わしを心配し過ぎじゃ!わしはそう簡単に死なん!」

ふんっとする秀吉殿はそれはそれは可愛らしくて、思わず笑顔になってしまう。
惜しむらくは、これが明智殿の前でなければ抱き締めたのに。

「まぁよい。秀吉、いつかお主は余に嫁ぐのだから、余り怪我をするなよ。」

「なりませんから!」

「威勢がいいな。さて、そろそろ柴田殿のところへ行くか。それと余り柴田殿を挑発するなよ?面倒はごめんじゃからな。」

「へーい。というか、それを言いに来たのでしょう?」

明智殿はふっと少し笑って、襖を開け去っていった。



案の定、首の怪我はなんだと大殿に聞かれた秀吉殿は、野良犬に噛まれたのだとはぐらかした。

大殿は恐らく勘づいておるだろう。
しかしそれ以上追求しなかった。