「何故あのように挑発を?柴田殿とは仲良くしといた方が良いのでは?」
秀吉殿の首に包帯を巻きながら問いかける。すると秀吉殿は笑いながら話し出した。
「ああも勘繰り深いと表面上は仲良くしてもすぐに牙を剥いてくるじゃろうよ。大殿がご健在の間に牙を剥かせて粛清した方が早そうだったのでな。」
「粛清?」
「ああ。あやつらは大殿には逆らえん。そんな大殿が大事にしている私に織田家の者が怪我を負わせてみろ。大殿は怒るだろうな。」
「…。」
「しかし私からは言ってはならん。そんなあざといことをすれば、大殿に見限られかねんからな。幸いこの怪我は目立つところにある。いやでも包帯が目につくさ。」
ああ確かに女狐だ。
今ようやくしっくりとその渾名が入ってきた。
「半兵衛も私の事を女狐と言うんじゃろ?」
不意に女の顔をする秀吉殿。拗ねたその顔は心を高鳴らせるのに充分だった。
「ふふっ。秀吉殿は女狐ですよ。でも、女狐にならねばならぬほど織田家のために奔走しているのが分かります。」
そう言うと秀吉殿はぽすっとそれがしの胸に入ってくる。その幸せな重さを受け止めぎゅっと抱き締める。
「……そこは違うと言うところじゃろ。」
「嫌でした?」
「いや、嬉しい…。」
抱き締め返してくれる秀吉殿からは、先程の強さなど微塵も見えない。自分に心を許してくれてることが凄く嬉しかった。

