もう話など無いと言わんばかりに秀吉殿が立ち上る。
しかし秀吉殿は動かなかった。

「……おい。言い過ぎだ。」

いや動けなかった。
突如滝川殿が秀吉殿の首元に鞘から抜かれた刀を当てていたからだ。

「秀吉殿!」「一益、何をする!」

それがしと柴田殿の声が飛ぶ。しかしとうの二人は微動だに動かない。滝川殿の顔は真っ直ぐに秀吉殿をいぬき、秀吉殿はそれを平然とした顔で受け止めている。

「半兵衛。わしは大丈夫じゃよ。」

にこっとこちらに笑みを向ける秀吉殿。しかしそれは圧力が強くて迂闊に何かを言えたものじゃない。


「怖いですなぁ。女の私でも容赦なく刃を向けるなんて。こわやこわや。」

秀吉殿がわざと私と言う。

「どこが女だ。化け猫の間違いだろう?」

滝川殿が秀吉殿の首元に刀を強めに押し付ける。遂に秀吉殿の首に少しだけ刃があたり、少し血が出てきている。

「滝川殿!やめてくだされ!」

それがしがそれに耐えきれず立ち上がろうとすると、秀吉殿が強く睨んできた。

「…半兵衛。動くな。」

その言葉でその場で固まってしまい、秀吉殿の血が少し流れていくのを見るしか出来なかった。

何故あのお方はいつも優しく、ときたま恥じらう表情を見せたりするのに、こんなにも怖いのだろう。

本当に同一人物か怪しい程だ。