「取り入ったって…!なんとまぁ人聞きの悪い。それがしがそのような奴に見えます?」
秀吉殿は柴田殿が顔をしかめているのを分かっていながら、それでも笑うことを止めようとしない。
柴田殿はその秀吉殿の小馬鹿にした態度に更に顔をしかめた。
「ああ。見えるな。お主は化けの皮を被った女狐じゃ。今まで織田家で女であることを隠し通せたくらいじゃ。取り入ることくらいわけなかろう。」
「信用が無いのですねぇ。」
「思えば、お主が口答えしようとも大殿は許していたからな。怪しいと思わん訳があるまい。」
秀吉殿は大きく笑った後、息を整えながら口を開いた。
「はぁ。面白かった。それがしと大殿はそのような関係ではありませんよ。そもそも私には半兵衛がおりますし。」
「しかしお主ならそんなこと気にせず…」
「柴田殿。」
秀吉殿が柴田殿の言葉を遮ると、途端に秀吉殿の殺気が部屋全体に蔓延した。
息がつまる感覚。
自分に向けられている訳ではないのに、やはりそれは味わいたくないものだ。
柴田殿は驚き、滝川殿は刀の柄に手をかける寸前のところで耐えている。
「前は大殿とお付き合いしていましたが、その時も利害を求めた関係ではありません。今はもう別れて、それがしは半兵衛のものにございます。」
「…。」
「その半兵衛の目の前で、そのような事言わないで頂きたい。大殿の一番になれない柴田殿のただの僻みでしょう?」
「は…?」
「ふっ。そのように僻むから一番になれないのでは?」
柴田殿の顔が鬼の形相になる。
秀吉殿は蔓延していた殺気を引っ込め、小馬鹿にした態度を取り続ける。
敵に回さないようにしたかったのではないのだろうか。

