「おお、秀吉。早かったな。」

柴田殿が笑顔で出迎えてくれる。しかしそれが心からの笑みでないことくらい、秀吉殿はすぐに気づいていた。

柴田殿の部屋には滝川殿もいた。
あまり喋らず、寡黙なこのお方は不気味な存在であることに間違いない。

秀吉殿も同じ考えのようで、柴田殿よりも滝川殿の方を警戒していた。

「まぁ秀吉も半兵衛もとりあえず座れ。秀吉が城主になってからというもの、話す機会が無かったからな。戦も終わったことだし、久々に酒でも飲みながら話そうぞ。大殿がいては出来ん話もあるしな。」

小姓が酒を用意してすっと下がっていく。秀吉殿は少し顔をしかめながらも、すぐに笑みを張り付けそれに応じる。

「いやぁそれにしてもお主が女子だと知ったときは信じられんかったが、いやはやなかなかに秀吉は綺麗な女子じゃよな。」

「おや、まさか柴田殿にお世辞を言われるとは思いませんでした。」

「いやいや世辞ではないぞ?半兵衛が羨ましい限りじゃよ。」

お互い腹のうちに黒いものを抱えながらもそれをおくびにもださず、話をしている。