樫の木の恋(中)



大殿が出ていく際にあんなことを言ったせいで、二人とも少し気不味い雰囲気を醸し出していた。
それでなくとも、もやもやとした頭の中をどうしたらいいか分からないと言うのに。

秀吉殿が息をつきながら、ゆっくりと壁に近づき背中を預ける。足を片方伸ばし片方は折り曲げ、膝の上に腕を乗せ男のような佇まいをする。

そもそも男の恰好をしている秀吉殿は、はたから見たら色男にしか見えない。

そんな秀吉殿に質問を投げ掛ける。

「大殿とどのようなお話を?」

「…別にたいした話はしとらん。」

気不味そうに目を伏せ、感情を読ませないようにする秀吉殿。
自ら大殿と秀吉殿を二人きりにしたのに、こんな風に妬いてしまうなんてどうしようもないと思いつつ、秀吉殿の返答にむっとする。

「秀吉殿には分からないのでしょうね。」

「えっ?」

ゆっくりと秀吉殿に近づき、目の前に座る。そしてそのまま左手で体を支えながら、右手で秀吉殿の頬をつねる。

「それがしは大殿にたいして妬いているのですよ?秀吉殿と仲良くて羨ましいな…と。」

ふにふにと頬をつねっていると、秀吉殿が顔を赤くする。柔らかくてずっと触っていたくなるような感触だ。

「大殿とは…何も無かったから…。」