「秀吉、“織田殿”と親しく呼んでいるのが、半兵衛は気に食わんのじゃよ。」
「えっ?あっ……。」
ようやく気づいた秀吉殿は、慌てて口を抑える。しかしそんなことをしたところでもう遅いのだ。
それがしの心の中は真っ黒い負の感情で埋め尽くされている。
やはり二人きりになどしなければ良かった。
「昔ずっとこの呼び方で呼んでおったから!久々にそう呼んだらこちらの方が呼びやすくて……。その…」
「そんなに焦って弁解されると、余計に勘ぐってしまいます…。」
しゅんとして肩を落とす秀吉殿。
そんな秀吉殿を見て大殿は大きく笑う。
そして大殿はゆっくりと立ちあがり部屋から出ようと襖に手をかける。
「藤吉。これからも頼むな。それと…」
襖を開けつつ振り返り、にやっと笑う大殿。
「明日は敦賀城に向かうだけで朝は遅い。半兵衛と二人でゆっくりしても構わんが、あまり激しくはするなよ?」
そう言って出ていった。
秀吉殿は茫然と大殿が出ていったところを見ていた。

