「ほんと酷い女じゃよなぁ。普通、己の事を好いている男に自分の男の話などするか?」

笑いながら言う大殿に少し驚く。
そんなあっけらかんと秀吉殿を好いているなど言ったことなどないのに。

「だ、だって織田殿が聞くから…!」

「織田殿…?」

秀吉殿は一度だってそんな呼び方などしていなかった。
そもそも厳しい大殿をそんな風に呼べる人などいないのだ。

それなのに今、秀吉殿は自然とそう呼んでいる。
そして普段見る二人よりも明らかに仲が良い感じがした。

思わず心の中を黒いものが覆っていく。

「…ずいぶんと仲が良いのですね。」

発した声は思いのほか暗くて、己の嫉妬深さが反映されてしまっている。

「そりゃそうじゃろう。なんせ愛し合う仲じゃからな。」

大殿が口角を上げ、にやっと笑う。
思わずカッとなる頭を懸命に抑える。

「織田殿!半兵衛をからかわないで下さいっ!」

懸命に否定する秀吉殿だが、そもそも親しく織田殿と呼んでいる時点で駄目だということに気づいていない。