「長谷川くん、」
ドキドキと鳴り止まない心臓を抑えながら。
あと数歩で着いてしまう職員室がもっと遠かったらよかったのに、って思いながら。
一生懸命吐いた息が、このせかいでいちばんすきな『はせがわくん』って文字に変わった。
「ん?」
クスクス、って。長谷川くんは笑う。わたしが必死なのをわかっているのかな。顔が熱いのもこの心臓の音も、伝わって欲しくないけれど伝わってほしい。矛盾してるけれど、少しでもきみがわたしのことを気にしてくれたら、なんて。
臆病なりに図々しいことを考えてしまうんだ。
「あした……あしたは、おはようって、言ってもいいかな」
一回ぎゅっと目を瞑る。
返ってくる言葉をぐるぐる考えて、ゆっくり目を開くと、目の前に「職員室」って文字が見える。
わたしも長谷川くんも足を止めた。
おそるおそる長谷川くんの方を見ると、同時に長谷川くんもわたしを見た。
「ははっ、当たり前! ていうか友達になろうよ、関田さん」
キラキラ輝いたその笑顔が、今、世界の誰でもないわたしだけに向けられているんだって思ったら、今にも泣いてしまいそうなくらい、わたし、うれしい。
「うん……なりたい。」
長谷川くんが笑うから、私もつられて笑う。
今は友達でいい。一歩でもきみに近づけたらいい。でもいつか。本当にいつか。きみの、特別になれたらいい。
でもとりあえず、あしたは、きみにおはようって言いたい。
そうしたらきっと、笑顔で「おはよう」って返してくれるきみのこと、わたしは今よりもっとすきになってしまうんだろうけれど。
それでもいいよ。
長谷川くん、わたしね。
あしたもあさってもその次の日も、たぶんきっと、きみがすきだよ。
きっときみ以上にすきになれる人なんて、この先いないかもしれない。そんなのまだ、全然わからないけれど。
今、この瞬間、となりにいるきみのことが、昨日よりぜんぜんすきなんだ。きっとあしたはもっと、すきになってしまうんじゃないかな。
「あーでも、」
「え?」
「おはようの前に、今日の帰りにバイバイって言うのが先かな」
そう言って、長谷川くんがわらう。わたしはうまく言葉を返せないで、熱い頰に思わず手をやる。
そんなのずるいよ、長谷川くん。また、きみをすきになってしまうよ。
きみはそんなこと、何も知らないんだろうけれど。
あしたも、あさっても、その次の日も。
長谷川くん、わたしきっと、きみのことがすきだよ。
【あしたもきみがすきです】Fin.



