いきなり声がしたから驚いた。
放課後、教室に残っていたのは寝ている長谷川くんと職員室に呼び出された私だけだったから、思わずわたしはきみの名前を呼んでしまったんだけれど。
まさか聞かれているなんて、ましてや返事が返ってくるなんて思わなかったんだ。
むくりと机から起き上がって、んーっと手を真上に伸ばす。あくびをした長谷川くんの目には少し涙が溜まっている。まだきっと眠いんだろう。
もしかしてこれは、夢なのかも。
わたしの都合のいい妄想なのかも。
だって、長谷川くんが「関田さん」ってわたしを呼んだ。長谷川くんが、こんなに近くで、わたしを見上げてる。
いつも後姿ばかり追っていたから、彼の目がこんなに丸くてきれいだって、今初めて気づいたよ。
「……関田さん?」
「えっ、あっ……」
「くくっ、そんなテンパらないでよ。ごめんごめん、俺が寝てたから、起こそうとしてくれたんだよね」
そういう訳じゃ、ないんだけれど。
思わずコクコクと頷いてしまったら、長谷川くんがそれを見てまた笑う。それに、またわたしの名前を呼んでくれた。
ああどうしよう、そろそろ心臓が爆発しそうだ。
「……職員室、行く?」
「う、うん」
ぎこちない返事を俯きがちに言うと、長谷川くんが席を立つ。
やわらかいストレートの茶髪。右側だけ耳にかけた長めの髪。色白で丸っこい、涙袋のしっかりした目。細くて背が高い。まっすぐ伸びた背中はいつも綺麗な白色カッターシャツがよく似合う。スタイルがとってもいいんだ。
ーー長谷川 綾人(はせがわ あやと)くん。
わたしの、すきなひと。



