私の父はとても頭のいい人だった。



祖父の代から県内に多数のホテルを経営していたが、それを全国に大幅に広げ、一気に一流ホテルの社長へと駆け上った。



整った容姿と、類稀なる経営手腕で、多くのメディアから取り沙汰され、敏腕イケメン社長として有名だった。



そんな父は、同じ大学に通っていて高嶺の花と言われていた人を妻にした。




私のお母さんだ。




その間に生まれた私は大きなお屋敷で、たくさんの使用人をつけられて、怪我ひとつしないように丁寧に育てられた。



いつも仕事ばっかりだったお父さんとはあまり長い時間を過ごした記憶はないけれど、話すときは必ずと言っていいほど同じことを繰り返し言っていた。




「由姫、慎ましい女になれ
勉強も運動もほどほどに出来たら問題はない
そんなものできたって何の意味もないからな」




この言葉を思い出すたびになんと酷い父親だったのだろうと思い知る。




娘の将来をあの人はすでに決めていた。
自分の会社のための駒にするつもりだったのだ。




私に将来の選択肢なんてなかったのだ。




何もわからない私に裕福な暮らしをさせてやって、後でこう言うつもりだったんだろう。





「あれだけの暮らしをさせてやったのは誰だ?」と。





私が反抗しても、嫌がっても、従わせられるように。





あの人は私のことなんて将来の会社のための道具としか思っていなかったんだ。