「いや、俺はさっきまで仕事だったんだ」
「そうなの?」
「ああ。打ち合わせが長引いたから直接ここに来たんだ。山田からみんな食事が終わり今はデザートタイムだと連絡がきて、急いでいたらロビーに見覚えのある人を発見して声をかけたって訳」
金沢くんはスーツの上着を脱ぐとネクタイを少し緩めながらソファに座る。
その時、左手が目に入り指輪をしていないことに気付き、なぜかホッとした。
「そうだったんだね。お疲れさま」
なんだ、宴会場に金沢くんはいなかったのか。
今日はツイてないと思ってたけど、いいことがあった。
この偶然に感謝しなきゃいけないよね。
「それより、いろいろあってってなんだよ。なにかあったのか?」
心配そうな表情で聞いてくる。
私のさっきの一言に引っ掛かりを覚えたみたいだ。
スルーしてくれてよかったのに。
「ううん、なんでもないから気にしないで」
「気にするなと言われても気になるだろ……。なぁ、もしかしてアイツに会ったのか?」
少し考えたあと、金沢くんは眉間にシワを寄せながら口を開いた。
アイツと言われて思い付くのは、私の中では一人しかいない。
それはきっと金沢くんが思っている人と同一人物だと思う。
口に出したくなかったけど、仕方ない。
「アイツって佐々木くんのことでしょ」
私の言葉に金沢くんは頷く。



