皐月ちゃんと緑くん

……緑 宗一郎くん。
いつも明るくて、皆を笑わせてくれる人。

「緑!早くどっかやれよ!」
「きゃっ緑くんこっち来ないで」

みんな緑君から離れてゆく。
でもそんなこと微塵も気にしてない様子だ。

とろけたような表情で、熱く、蝶を指にのせて見ている。

「めずらしいんだよ、市街地では。
 ほら、見てよ。この羽を。」

「わゎ!」
 ガタン!

急に私に近づけてくるので、ビックリして椅子から落ちてしまった。

「驚きすぎ。」
緑くんは、目を丸くしてからまたニカッと笑った。

ちらっと視界に黒の中の青と緑がきらきら発光する羽がはいってきたが、私は緑くんの笑顔をじっと見つめてしまっていた。

緑くんと、目があった。蝶を見ているときのような熱を込めた視線だった。
私のことをかわいいと思っているのだろうか。いや、それはない…。

「あ、わかった。唇、さつきみたいな色だからだ。そりゃね、僕が蝶でも、花岡さんにとまるよ。」


顔がポッとあつくなり、涙腺がゆるむ。
顔全体にも、咲いたみたいだ。

もう、見てこないでほしい。
そんなに見られるとなんか、涙と一緒に込み上げてきてしまう。

「そ、そうなの!でもこれ生まれつきだから!」

「ぇ…」

つい、緑くんを責めるように言ってしまった。せっかく肯定してくれたのに、褒めてくれたのに…。

「そろそろ授業始めるぞー、チッ蝶のせいで時間食っちまった。緑、早く逃がせ。」

「ビビってたくせに、先生。」

「なんだと!!」

ドッとみんなの笑い声が聞こえた。
緑くんは、しばらくいやがる皆にその蝶の魅力を力説していた。


私は、ありがとうさえも、言うことができなかった。