5月のひんやりとした空気心地よく感じながら、咲き乱れるさつきの花の花壇に沿って
学校へ向かう。

「おはようございます。」  


「おはよーぅ!花岡!口紅は校則違反だろ、今すぐ落とせ!」

そう言って先生はティッシュを差し出した。
断ったら、しつこくされて、余計時間を食うだろう。体育教師とはそういうものだ。
ティッシュを受け取り、唇にはさんだ。

「私は生まれつきこの色なんです。」

何も色のつかなかった真っ白なティッシュを先生にかざしながら、これからはもう注意しないで下さいという威圧感を与えるように言った。

私の唇はさつき色、さつきの花の色。
内からパッとさいたさつきのような鮮やかさがある。
自分の名前も皐月なので、何度、注意されようとも、この色を隠そうとは思わない。
それどころか、面倒くささはあるが、注意されるほど綺麗なのかと私の唯一とりえ、自信になる。