高校1年生の春、私は高校デビューしようと必死に頑張っていた。
 


中学生の時は家庭科クラブという地味で目立たないクラブに所属し、平穏な日々を送った。

毎日ほとんど縫い物をして、月に1回部員たちで批評会をする。

家庭科クラブと名のつく以上、その時ばかりは自分たちでお菓子を作って食べたりもした。



ーーー楽しかった。





でも…





心のどこかで思ってた。





刺激が欲しいって。





このままじゃ高校生になっても何も変わらないって。

一生、地味で目立たない、おさげのメガネちゃんのまま。








変わりたい。

変わりたい!

変わりたい!!




…変わろう!!!







そう決心して、練習を開始した。







春休み。

したことも無かった化粧を人生で初めてした。

グロスは塗りすぎて真っ赤になり、まるで魔女の様な恐ろしい唇になった。

眉毛は上手く書けなくて左右非対称になった。

チークは唇の色と合ってなくてなんか不自然だった。



それでも、諦め無かった。




幼稚園児だった時からずっと掛けてきた分厚いレンズのメガネを外した。

一瞬何も見えなくなって、この世界から置いてきぼりにされたみたいな感覚に陥ったのを今でも覚えている。

コンタクトレンズはなかなか入れられなくて、結局1日目は断念した。

2日目は少し慣れて16枚無駄にしたところでなんとか入った。

3日目以降は、
12,14,10,8,8,8,10,6,4,4,2という感じで推移した。






こんな感じで着実に高校生への階段を登っていったんだ。







初めて新しい自分を鏡を通して見た時、嘘だと思った。





これが私…?





鏡に映る自分は自分じゃなかった。


別人だと信じて疑わなかった。


それくらいの衝撃を受けた。






「乙葉?…本当に乙葉なの?」

衝撃を受けたのはお母さんもだった。

「可愛いじゃない。今までが嘘みたい」


そう言われた時、

うれしくてうれしくて、

涙が右目からすーっと頬を伝って落ちた。

お母さんが優しく私を抱きしめてくれて

「素敵な高校生活を送れそうね。お母さん、安心して天国に逝けるわ」

とか細い声で、最後の力を振り絞るように言った。


「お母さん…」


「乙葉、この先何があっても絶対に逃げちゃダメ。誰かがきっとあなたを見てくれてる。私も…ずっと遠くからあなたを見守り続けるからね」


「やだよ。…そんなのやだ!お母さん、逝かないで。そばに居て!」


「乙女葉…ーーー幸せに…ーーーなってね」







それがお母さんの最後の言葉となった。

その時、癌は全身に転移していたという。










「幸せになること」




それがお母さんと交わした最後の約束。

絶対に守らなきゃならない。
 







それなのに、私は入学早々に破ってしまうことになる。