拍手はなかなか鳴り止まなかった。

見事なシンデレラだった。

役者のみんなの演技、ナレーションが素晴らしく私は終始感激しながら見ていた。


「つばめちゃん、良かったね。大成功だよ」



ーーあれ?



さっきまで隣りで見ていたはずのつばめちゃんがいつの間にか居なくなっていた。

私が彼女を探しに行こうと立ち上がると照明が落ち、暗闇に包まれた。


「私はシンデレラにはなれない」


えっ…

この声…


「私が大好きな人はそう言った。1年生の頃から彼女とは同じクラスだったけれど、今まで話したこともなかった。なぜなら、怖かったから。彼女はいじめられていた。私は自分が巻き込まれないように、自分を守るために彼女には近づかなかった。いじめを傍観してたんだ。でも、彼女にそのことを打ち明けると、彼女は私を笑って許してくれた。」


これって…

もしかして…


「私は信じてる。誰もがシンデレラになれることを。そして今、証明します。」


「桜井乙葉!!」

「はいっ」


声が思い切り裏がえる。

スポットライトに照らされてまぶしい。


「最初に君を見た時から、ずっと君が好きだった」


会場がどよめく。 

いや、私の心の中の方が大きな波が押し寄せて、大荒れだ。


「君はいつも自分を殺して、人に怯えてた。
なんとかして助け出してあげたかったけど、見守ることにした。君が強いって信じたいと思ったんだ。
そしたら、やっぱり君は強かった。
いやいややらされたのに、文句1つ言わないで、誰よりも雑用をがんばった。
最後には俺のわがままな要求もきいてくれた。
俺は君に作ってもらった衣装で演じたかったから、ちょっと強引になったけど、許してほしい。
ーーー許してくれる?」


私は頬を伝う涙を必死に拭いながら、力強く頷いた。


今までの冷たい彼が嘘のように優しい。


「じゃあ、最後にもう一度言わせて下さい」


一気に静まり返る教室。

コホンと誰かが乾いた咳を1つした。

そして誰かが喉を鳴らした。



「俺は桜井乙葉が好きです」




言おう。


今言おう。


言わなきゃ、


伝わらないから。


「桜井乙葉は兵藤蓮が大好きです」


そう言うと彼が走ってきて、私を強く抱きしめた。

強く、強く。

私が離れていかないようにーーー





絶対、離れないよ。

この奇跡、忘れないよ。

 


ずっと、 


ずっと、


ずーっと、


忘れない。


頭で忘れても、心で覚えてる。




「シンデレラになれたかな?」

私がそう呟くと、彼が耳元でこういった。






「1秒後になる」






彼の唇が私の唇に優しく落ちた。








目を閉じる。




今までの苦しみより嬉しさが胸にこみ上げた。
 







 


私、シンデレラになれた。



夢じゃない。


私はシンデレラ。





いつの間にか、分厚いメガネは外されていた。