奈菜子は、病死だった。
二年半の闘病の末、最後は呆気ないものだったと感じたのを天輝は覚えている。
(お母さん…笑ってたな)
制服に着替えながら、天輝はそんなことを考えていた。
最後を看取ったのは、夫である秀明(ひであき)と娘の天輝だった。
静かに眠るように亡くなった姿は、今も脳裏に焼き付いている。
(昨日の今日だからな…)
奈菜子の命日あたりになると、否が応でも昔のことを思い出してしまう。
幸せだった、もう戻らないあの頃のことを。
「あっ…」
ふと時計を見ると、もう7:00を示していた。
(しまった…。ちゃんとしなきゃ)
スクールバッグとスマホ、ブレザーを持って天輝は自室から出た。


