彼がOKするとは思ってない。

微塵も疑ってないけれど、でも。


「……ごめん結城。私ちょっとお手洗い行くね」


自分の彼氏が他の子に触れられて、誘われている光景を前に、平常心でいられるほど心は広くなくて。


「お、おう。その……大丈夫か?」


私の様子がおかしい事と、その原因に気づいたらしい結城が心配して私の顔を覗き込んだ。


「ありがとう。大丈夫」


結城は私たちが付き合っていることをまだ知らない。

私が片想いしているままだと思っている。

だから、愚痴を吐くことも叶わない私は、笑顔を貼り付けてその場を離れた。


……片想いしてる時は、あんな光景を見ても切なくなるだけだったけど、今は……

どうしようもなく、醜い感情が溢れてきてしまう。

二ノ宮は、私の彼氏なの。

誘わないで。

下心があるその手で触れないで、と。


更衣室の前に差し掛かったタイミングで息を吐き出した直後。

いきなり背後から私の手首が強く掴まれて足を止めた。

もしかして、二ノ宮が、なんて期待しながら振り向く。


「みーうちゃん。どこ行くんだよ」

「䋝田先輩……お手洗いに」


……ダメだ。

私、性格悪い。

勝手に嫉妬して、抜け出したくせに。

二ノ宮が追ってきてくれたのかもなんて期待して。

違ったら……落胆して、何で、来てくれないのかと、身勝手に責めて。