私が、いなくて寂しい……なんて。

本当ならにやけちゃうくらい嬉しいけど、もしかして、社交辞令なのかもしれないと思った。

だって彼は照れた様子もない。


「あ、電車きた」


至っていつも通りの態度だ。

それなら、私も社交辞令で返すべきなのか、と、僅かな期待を捨てきれずドキドキしながら考えていたら、ホームに電車が入ってきて騒がしくなる。

甲高いブレーキ音のあと、完全に電車が止まれば噴射音と共にドアが開いた。

降りる人たちと入れ替るようにホームで待っていた人たちがどんどんと車内に入っていく。

私と二ノ宮もその流れに従い電車に乗り込んだ。

たどり着いたのは入り口とは反対のドアの前。

固く閉ざされたドアに軽く背を預けると、ぎゅうぎゅうと人に押された二ノ宮が、私と向かい合わせで密着する形になった。

部活後、彼がいつも使っている制汗剤の香りがぐっと近くで感じられて、否応なしに胸が高鳴っていく。


「ごめん、きつい?」


そう言いながら、彼は私を守るようにドアに手を当てて体を支えていた。


「だ、大丈夫、ありがと」


見上げたすぐそばに彼の整った顔があって、その近さに慌てて俯く。


「二ノ宮は大丈夫?」

「余裕」


やがて電車が動き出すと、二ノ宮の体がバランスを崩しそうになり、とっさに腕を背中に回して支えた。

制服のブレザー越し、僅かに彼の体温を感じる。


「……サンキュ」

「う、ううん」


二ノ宮が体勢を整えたのを確認すると、私は手を引っ込めて、ぎこちなく下ろした。