「俺も、後悔はしてないよ。でも……このまま、終わりたくないんだ」


告げた刹那、彼は不安そうに瞳を揺らしてから、そっと私の両の手を握って。


「桃原、俺は別れたあの日からもずっと、桃原のことだけが好きだよ」


耳を、心を震わせた響きに、呼吸が苦しくなった。

突如訪れた奇跡に、鼓動がうるさいぐらいに高鳴っている。


「だから、もう一度、俺と恋をしてみませんか?」


今度は掟に縛られずに。

秘密にせずに。


ほんのりと紅く染まった目元と、透き通るような笑み。

穏やかな風が吹いて、淡い桃色の花びらがゆるゆると舞い落ちる中、私は彼の手に自分の指を絡めて握り返す。

そうして、喜びのまま、想いのまま、頬を緩めて頷くと、少し懐かしい香りと優しい体温に包まれた。







- fin –