一体誰、と疑問に思ったのもつかの間。


「ごめん! 桃原借りる!」


すぐ近くで、別れたあの日からも変わらずに想い続けている人の声がした。

柑菜の驚く顔が見える。

けれど、すぐにその瞳が細められて、楽しげに手を振ると「いってらっしゃい」と校舎の中へと姿を消した。

そうして、戸惑う私の腕を問答無用で引いて、向かい合わせにされる。


「えっ、あの、二ノ宮?」


枝をしならせる桜の木から花びらが舞い散り、それを背景に立つ二ノ宮が唇を動かす。


「桃原の時間、少しちょうだい」


これでは、文化祭の時と逆だ。

いきなり誘われて戸惑う私に、二ノ宮が微笑む。

ひどく愛しげに、ひどく優しげに。

その表情に、胸の内がキュンと締め付けられた。

もしかしたらまだ、なんて期待が溢れてしまう。

けれど、彼は元々優しい人なのを思い出し、期待を慌てて胸の奥に引っ込めた。

二ノ宮は私の腕を掴んでいた手を離すと言った。


「えっと……そうだ。まず、大学合格おめでとう」

「え、あ、ありがとう」

「結城から聞いたんだ。桃原は、スポーツトレーナーを目指すって」